
寒くなったせいか、風邪がはやっているらしい。ぼくもそうだし、まわりでも風邪をひいて寝こんだという話をよく聞く。そうでなくても、学生生活をしていると、急いで論文を仕上げたりしないといけないときなど、数日家にこもりきりになることがある。そんなときでも、映画館や美術館で息抜きしたり、カフェで食事をしたりと、それなりの楽しみがあればいいのだけど、そんな余裕すらないときがある。そんなときはパリにいても東京にいてもケープタウンにいても、あまり変わりないような気がする。 この部屋からはエッフェル塔もサクレ・クールも見えない。もちろん一歩外に出れば、近くのパン屋で焼きたてのバゲットを買うことができるし、ちょっと足をのばせばブキニスト(屋台の古本屋)をひやかしながら川べりを散歩することもできる。いや、たとえ一歩も外に出なくても、平日の朝は日曜とは違う活気があり、ふと耳をすますとどこからかパリ訛りの話し声が聞こえる。週末ともなればあちこちの窓から人を招いて音楽をかけて踊ったり、ワインを飲みながら談笑するにぎやかな光景が見られる。窓を開けておけば本棚やテーブルは黒っぽい埃でうっすらと覆われていき、水道水を一口飲めば石灰分の多いあのパリの水の味がする。 ぼくが住んでいるセーヌの右岸、モンマルトルに近い住宅街は、14世紀の「シャルル5世の城壁」の外側、18世紀の「徴税請負人の壁」の内側にあたる。通りには19世紀末の、パリでは比較的新しい建物が並ぶ。パリの建物はふつう、天井が高く部屋数が多い裕福な人たちのアパートが下の階に、学生や独身者向きの小さい部屋が上の階にある。これはエレベーターのない時代の名残り。この傾向は都心に近い古い地区ほどはっきりしているから、パリの学生はいまも昔も他の人より少しはよくパリの空を知っているかもしれない。 今日は外がなんとなく騒がしいので見てみると、下の通りで映画のロケをしていた。パリでは街を歩いていて映画の撮影に出くわすことがよくある。テレビのゴールデンタイムも連続ドラマより話題の映画を売り物にする局が多い。映画を見るのに日本ほどお金がかからないし、過去の名作、世界各国の注目作、いわゆるB級映画など、個性的な特集を組む小さな映画館が街のあちこちにある。街を歩いていて、女優や俳優など、スクリーンでおなじみの顔を見かけることもある。映画の舞台のような街というより、ここでは映画そのものが身近で親しみやすいものなのかもしれない。
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