
太陽王ルイ14世によって造営された絶対王政の象徴、ヴェルサイユ宮殿。室内装飾を手がけたル・ブランの絵画は、ティツィアーノ、ティントレットと並ぶもう一人のヴェネツィア派ヴェロネーゼの絵画に対して、「イタリア・ルネッサンスの時代は終わった、いまや芸術もわがフランスだ」と言わんばかりに飾られている。しかし、贅を尽くしたこの権力の象徴も、1789年のフランス革命をもって、王宮としての役割を剥奪されることになる。宮殿の裏側に広がる庭園は一見の価値があるだろう。左右対称の庭の間を抜けてまっすぐに伸びる道は水平線とぶつかり、無限に続く彼方を感じさせる。 
この大舞台も権力を奪われてからは、豪奢な廃墟のように、失われた過去の栄光を見せつけようとしているかのようだ。毎年、何百万人の旅行者がこのきらびやかな廃墟を写真に収めようとやってくるが、その光景といえば、ルイ・ヴィトンやエルメスのショップでバッグを買いに並んでいる人の光景とさしてかわらない。退屈でつらい、みじめな日常を、金ぴかの王の寝室やヴィトンの新作が忘れさせてくれる。高い旅費を払ってやってきて、日々の苦労もこれで報われるというもの…。 ガイドを頼まれてやってきたこの豪奢な廃墟の中でもっとも美しかったのは、ル・ブランの装飾や絵画でも、ル・ノートルの庭園でも、もちろん王の寝室でもなく、小さな愛犬とともに遠くを眺めていた一人の老婆だった。静かな彼女のまなざしの先には、この廃墟の栄光の歴史が広がっているのではなかろうか?
|