ヴィー・プラス 
ホームページへ!あなたの知識や知恵にプラスな情報おおしえします。あなたのグルメライフにプラスしてほしいオイシイ情報。ココロもカラダも美しくなることいっぱい!映画、音楽、旅行・・・暮らしのスパイスはこちらから。ちょっとしたプラスが大きな差を生む・・・ステキなインテリア情報。
<BBS> <Editor's Diary>
last updated : 2005/02/03
title
photo
オノ君
【オノ君profile】
パリ9区在住。
20世紀フランス
文学を研究中。

vol.14 冬の朝

ここしばらく寒い日が続いている。朝早く出かけなければならないとき、飲み明かして始発のメトロに乗るとき、どちらでもいいけれど、朝の街を歩くと、冬の朝がそっとしのび寄るように明けることに気づく。緯度の高い地域に住んだことのある人なら誰でも知っているように、街は日の出より早く目覚めるからだ。その表情をいちいち確かめなくても、早起きの人と朝帰りの人はその足取りからたやすく見分けがつく。白い息を弾ませ勤めや学校に向かう人々と重い足を引きずり家路につく人々がすれ違うとき、街灯がまだ残る暗さのなかで、新しい一日が始まる。

7階建てほどの建物がびっしり立ち並ぶ市街地では、日の出を見ることも難しいうえに、冬を通してパリはどんより曇りがちで、気持ちよく晴れた高い空を見上げることはめったにない。小さな煙突が黒い影になって一列に並ぶ屋根の稜線が白みはじめると、煙突の口から白い煙が立ち上るのが見える。煙突は円柱型をしたレンガ色のものが多い。長さや太さはさまざまで、なかには編み笠のような小さな屋根のついたものもある。多くの家が集中暖房あるいは電気・ガス暖房をもついまでは暖炉を利用する家庭も少なくなったのだろう。煙を吐き出しているのはずらりと並ぶ煙突のなかでもほんの一握りでしかない。

ぼくのアパートにも暖炉があり、前の住人が使った痕跡があるのでふさがれてはいないのだろうけれど、そういう習慣がないせいか、使ってみようと思ったことはない。暖炉の入口は黒いスライド式の鉄板でふさがれていて、どういう仕組みになっているのか、すきま風や雨が吹きこんでくることはない。いずれにせよ、暖炉の火を囲むというのは家族の団欒にふさわしく、独り暮らしなら、老人の丸い背中にこそ似合う。そういえば、フランス語の暖炉foyerということばは家庭という意味ももつ。調理や暖房など、暖炉の火が活躍した時代には、屋根裏部屋の住人が煙にむせぶこともあったかもしれない。

6階にある部屋の窓を開けると、見わたすかぎり連なる灰色のトタン屋根の上には今日も重く垂れこめた空が迫っている。地上のパリでは石造りの建物と街路の垂直の交差がゆるぎないリズムを生み出しているとすれば、屋上のパリでは屋根の水平的な連なりに、マンサルドの傾斜、ふぞろいな煙突、ひとつとして同じ型のないテレビアンテナが雑然とした凹凸を与え、どんよりした大気の厚みの向こうに教会の鐘楼、高層建築、歴史的モニュメントがかすんで見える。これに加えて、地下鉄、上下水道、ガス、電気、通信ケーブルの網目状組織、建築資材の採掘跡に作られたカタコンベがかたちづくる地下のパリがある。

空を低くおおう雲の動きはあわただしく、その速さのばらつきが灰色の一様な拡がりにかろうじて奥行きを与えている。このような雲の厚みを通すと光源である太陽の位置も見定めることがむずかしい。そのせいで朝目覚めても、それが夜明けの暗さなのか夕方の暗さなのかわからず、途方に暮れることもある。車が少なく、ほとんどの店が休業する日曜日がとくにそうで、こういう日は時計を見ても、それが正確な時を刻んでいるのかにわかには信じがたい。そんなわけで、街に灯がともる時刻になるとかえってほっとしたりすることもあるけれど、冬のパリは雨の日が多いことを考えると曇りでもまだましなのかもしれない。

バックナンバーはコチラ