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<BBS> <Editor's Diary>
last updated : 2004/09/06
コーヘーのパリメール
府中市出身パリ在住のコーヘーが、パリでの暮らし、今のパリの様子などを毎週届けてくれます。後半のプチ・フランス語講座もお見逃しなく!
 
From オノ君
Date 2004年9月4日
To ヴィー・プラス編集部
Subject 終わらない夏
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★今週はコーヘーが仕事でパリにいないため、オノが代わりに書きました。
  今年もまた夏が終わろうとしている。小さい頃は蝉の鳴く夏の午後がいつまでも暮れないような気さえしたけれど、この頃は気がついたらいつの間にか夏が終わっている。友達に会うのでも、昔は一時間後に約束したらそれまでの時間をどうやってつぶすか途方に暮れるほどだったのに、いまでは出かける準備をしながら遅れた言い訳を考えている。変わらないのは夏の間に片付けておくべきだった「宿題」に追われていることくらいかもしれない。
 まだ見ぬ人との思いがけない出会いでもいいし、新潮文庫の名作100を読破するという目標でもいい。夏が始まる前、いろいろな希望や期待に胸をふくらませた覚えがある人も多いだろう。ぼくはというと、いまでは何もおこらない夏もあることを知っている。新潮文庫にいたっては毎年少しずつ内容が変わるので、現在何が名作に選ばれているのかさえ知らない。それでも夏の終わりはいつも少しもの哀しい。大きすぎる期待を抱いてしまうのは夏がいつまでも終わらない気がしたせいだろうか。
 バカンス明けの季節はフランスではちょうど日本でいう新年度に重なる。劇場のポスターは新シーズンの幕開けを告げ、家具店や文房具店は新学期を当てこんだ商品の売りこみに忙しい。9月に入ってパリの街にも不思議と心をざわつかせるあの夕暮れが戻ってきた。そう、パリの夕暮れはいつも何かが起こりそうな予感がする。たとえ、それが期待外れに終わっても、パリの夜はあなたを失望させないだろう。次の日の夕暮れはまた新しい予感に満ちているから。東京に比べるとずっとこぢんまりとした街なので、終電を逃しても、心のおけない友人があなたを家の下まで送り届けてくれる。子供時代のようなこの懐かしい親密さもパリの魅力だ。パリで過ごした青年時代の記憶はその後も失われることはない。そんな意味をこめて、ヘミングウェイはパリでの修行時代を追憶するエッセイに『移動祝祭日』というタイトルを与えている。
 夕暮れ時、煙の立ちこめる薄暗いカフェの一隅、夏物の明るい生地の下にのぞく褐色の肌に、暑さにぼんやりかすんだまなざしに、夏の日ざしがまだ暮れ残っている。その日ざしを浴びた葡萄ももうすぐ収穫の季節を迎える。雨の日の続いた2004年はどこか物足りない出来のワインになるのだろうか。そう心配する夏季限定パリメールの送り手は、このまま夏とともに去ることに少し未練を感じている。それともこのまま夏が終わらないことにしようか……。
(写真は夏の午後、パレ・ロワイヤル(1区)の中庭)

今週の表現  今週の表現

サンパ。感じのいいという語の省略形。たとえば、(イレ(エレ)・サンパ)といえば、彼(彼女)は感じがいいという意味。あまりによく使われるので、こう言うだけだと、「いい人だよ」という無難な意味にしか聞こえないときもある。カフェやレストランなど、人以外のものにも使える。楽しいパーティーに招待されたら、帰り際、その家の主人に、(セテ・サンパ)と言うのを忘れずに。


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【オノ君profile】
コーヘー、ルカ・スクリーブの友人でパリ9区在住。20世紀フランス文学を研究中。
オノ君